【2nd Kitchen コラム】食欲ってなに?~食欲の秋~

猛暑の夏も終わり、秋冷感じる今日この頃。野菜や果物、美味しい食べ物が盛りだくさんの秋、食欲の秋の到来です。さて、今回は秋の味覚ではなく、食欲の秋の“食欲”について、我々の身体の変化を探ってみたいと思います。

 

◆摂食調節はどこで行われるか

我々は、”お腹が空いた”という空腹感により摂食行動を起こし、”お腹がいっぱい”という満腹感によって摂食を止めます。この本能的な行動は、間脳視床下部の外側野に存在する摂食中枢と腹内側核に存在する満腹中枢により調節されています。
ゆえに、摂食中枢が刺激され、満腹中枢が抑制されると食物を摂取し、反対に満腹中枢が刺激され、摂食中枢が抑制されると摂取が止まるため、摂食中枢と満腹中枢は相反する関係にあるということです。なお、摂取行動の研究のために人為的に外側野が破壊された実験動物は食物を摂取しなくなったり、やせたり、餓死する一方、腹内側核が破壊されると多食となり肥満となります。

◆食欲調節因子

食物を摂取したいという欲求、つまり食欲は、生命の維持、および生活活動の継続に必要な摂食行動を開始させる大切な要因です。食欲は通常空腹によって生じますが、空腹感がなくても食欲を感じることがあるように食欲は様々な因子の影響を受けています。

 

◎グルコース/遊離脂肪酸

血液中のグルコース、すなわち血糖や遊離脂肪酸によって、摂食中枢および満腹中枢が調節されています。なお、遊離脂肪酸とは、脂肪の分解によって生じる脂肪酸のことです。摂食により血糖値が上昇すると、摂食中枢は抑制され、満腹中枢は刺激されて満腹感が生じます。そして、時間の経過に伴い血糖値が低下すると、エネルギー源として脂肪の分解が進むため、遊離脂肪酸量が増加し、摂食中枢が刺激されます。

◎胃

胃に食物が入ると、胃壁がのびます。すると、その変化に副交感神経が反応して満腹中枢を刺激し、満腹感を起こします。一方、胃の内容物が腸へ送られると胃壁が縮み、今度は交感神経が反応して摂食中枢を刺激し、空腹感を起こすことによって食欲がわいてきます。

◎五感

五感とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五つの感覚のことですが、まず視覚。目にした料理の色彩や形態が刺激となり送られます。次に聴覚。ジュウジュウと焼ける音や噛むことによって生じる音。漂ういい匂いが嗅覚を刺激し、口にすることによって味わうことのできる味覚に、口にした後の口腔粘膜の刺激が触覚に相当します。これら五感が密に働き食欲を継続させる因子となります。

◎食経験

食欲は食経験の影響も受けます。五感による情報と食体験の記憶・知識などが脳の偏桃体という部分で統合され、美味しい・美味しくないなどの判断がなされます。これらの情報は各中枢がある視床下部に送られ、美味しい、という判断は摂食中枢に伝わるので食欲が亢進します。他方、美味しくないという判断は満腹中枢に伝わるので食欲がわかないということになります。また、幼少期や小児期に習慣づけられた食経験は、成長した後まで食習慣として残り、食欲にも影響を与えます。

◎心身の状態

経験がある方も多いかと思いますが、精神的なストレスは食欲に影響します。食欲はストレスの程度により亢進したり、減退したりします。また、体調によっても食欲が変化し、ほとんどの疾病時には食欲は減退します。

◎取り巻く環境

環境には、気温などの自然環境および食品に関する情報などの社会的環境が存在します。いずれの環境要因の影響も食行動の動機づけとなり得ると考えられています。さらに、様々な“コショク”が言われている昨今、食事の場の雰囲気などの影響も受けやすいとされています。

🍰 恐ろしい別腹

食事を終え、お腹がいっぱいでも、デザートや好物が目の前に出て来ると食欲がわいて来ますよね。これは、その食べ物の色や形、美味しかった、という記憶などが脳の偏桃体で統合されることにより、脳内にドーパミンという快感物質が増加することによって摂食中枢を刺激するからと言われています。このドーパミンによる刺激が、胃壁の収縮や血糖値の上昇による生理的な満腹感に勝ると、あたかも別腹が存在するかのように、満腹であってもさらに食べてしまうのです。

専門用語もいくつか出て来て小難しく感じるかもしれませんが、このように食事を摂ることによって我々の身に実際に起こっている現象を少し知っておくと、ただ単に食事を摂るだけではない楽しさが生まれますよね。一度上記のことを少し思い浮かべながらお箸を取ってみてはいかがでしょうか。